今世紀最高の条件(観測地へのアクセスのしやすさ、晴れやすさなど)と言われた、北米皆既日食を見てきました。皆既日食帯のほぼ中心に位置するオレゴン州ライオンズ(Lyons)という小さな町で、雲一つない快晴に恵まれ、パーフェクトな条件で観測することができました。皆既日食を見るのはこれが初めてで、超感動しました。本当に行ってよかったです。
皆既日食中のコロナを多段階で合成。
BORG 71FL, 7215 x1.4, SONY α7S, 560mm, f/7.9, ISO100, 1/1000+1/250+1/60+1/15+1/4s, RAW5枚合成, ステライメージ8でローテーショナルグラディエント, トーンカーブ調整, アンシャープマスク等。
双眼鏡で眼視したイメージを思い出して再現してみました。プロミネンスから外部コロナまで全部見えていて、空は青く見えました。
BORG 71FL, 7215 x1.4, SONY α7S, ISO100, 1/1000+1/250+1/60+1/15+1/4+1+4s, RAW7枚合成, ステライメージ8でローテーショナルグラディエント, トーンカーブ調整, アンシャープマスク等。
コロナがよく見えるように調整してみました。フルサイズの画角からはみ出るくらいコロナが広がっています。調整の仕方で印象がずいぶん異なりますね。
BORG 71FL, 7215 x1.4, SONY α7S, ISO100, 1/1000+1/250+1/60+1/15+1/4+1+4s 各2~3枚、合計RAW19枚合成, ステライメージ8でスタック、ローテーショナルグラディエント, トーンカーブ調整, アンシャープマスク等。
皆既日食中のコロナ。1枚だと内部コロナが白く飛んでしまいます。
BORG 71FL, 7215 x1.4, SONY α7S, ISO100, 1/4s, RAW1枚, GIMPでAPS-C相当にトリミング, トーンカーブ調整, アンシャープマスク等。
ダイヤモンドリング。コロナやプロミネンスも見え始めています。
BORG 7215のおかげで、ゴーストはかなり少なめだと思います。 BORG 71FL, 7215 x1.4, SONY α7S, ISO100, 1/60s, RAW1枚, GIMPでAPS-C相当にトリミング, トーンカーブ調整, アンシャープマスク等。
長く露出するとコロナがフルサイズからはみ出るくらいに広がっているのが写りました。地球照に照らされた月面の模様も見えてきました。太陽がたしかに月に隠されているのがよく分かります。
BORG 71FL, 7215 x1.4, SONY α7S, ISO100, 4s, RAW1枚, GIMPでトーンカーブ調整, アンシャープマスク等。
ベイリービーズ。皆既の直前です。 BORG 71FL, 7215 x1.4, SONY α7S, ISO100, 1/8000s, GIMPで調整。
プロミネンス。α7Sだとちょっと解像度が足りない感じですが、炎のような感じで写りました。 BORG 71FL, 7215 x1.4, SONY α7S, ISO100, 1/1000s x6枚, ステライメージ8でスタック, 調整, GIMPで微調整。
撮影機材
撮影機材は機動性重視で、ミニボーグを中心に構成しました。旅の荷物の総重量は20kgほどで、追加費用なしで余裕で飛行機に乗れる重さでした。レンズをばらして機内持ち込みにできるのも組み立て式のBORGのいいところです。
- 望遠鏡
- TOMYTEC ミニボーグ71FL対物レンズ(BK)【2572】
- TOMYTEC M57ヘリコイドLIII【7861】
- TOMYTEC M57ヘリコイドDXII【7761】
- TOMYTEC ミニボーグ鏡筒DX-LD【6015】
- TOMYTEC M57/60延長筒S【7602】
- TOMYTEC 1.4×テレコンバーターGR【7215】
- TOMYTEC カメラマウントホルダーM【7000】
- TOMYTEC M49.8延長筒S【7921】
- TOMYTEC M49.8延長筒M【7922】
- TOMYTEC カメラマウント ソニーNEX用(Eマウント)【5013】
- MARUMI ステップダウンリング 72mm → 49mm(部分日食中のみ)
- Kenko PRO ND1000+ND100 (ND100000相当) 49mm(部分日食中のみ)
- カメラ
- 赤道儀
- Vixen ポータブル赤道儀 星空雲台 ポラリエ
- Vixen ポーラメーター
- TOMYTEC 片持ちフォーク式赤道儀【3101】
- TOMYTEC アルカクランプボーグ用【3110】
- TOMYTEC アングルプレート35VP(ブラック)【3235】
- USBリチウムイオン電池 (何かのノベルティグッズ)
- 三脚
- SLIK AMT 340HD
- SIRUI L-20S 雲台
- SLIK ストーンバッグDX
- 双眼鏡
半年前
皆既日食は一生のうちには見たいと思っていましたが、行くかどうか迷っていました。北米でアクセスしやすいとはいえ、皆既日食帯に入るのは比較的田舎の州がほとんどで、半年前の時点ですでに皆既日食帯内のホテルはほとんど満室で、公共交通機関も混雑であまり期待できない状態でした。皆既日食帯に入るには、少し離れたところに宿泊し、レンタカーで移動するのがほぼ必須という状況だったので、海外で運転したことがなく、日本でもあまり運転しない私は困ってしまいました。
そんな中、1月にアメリカ居住経験がある友人の1人がポートランド近辺で日食を見に行くというのを聞き、それが後押しになって、私も行くことを決めました。ポートランドはけん玉プレイヤーの友達も多く、いざとなったら頼れるのも理由の1つでした。
3年くらい車を運転しておらず、運転に自信がなかったので日本で何回かレンタカーを借りて練習しました。国際免許も初めて取得しました。国際免許は免許センターに行って2000円払えば誰でももらえます。
撮影機材は天体観測遠征用のものをある程度持っていたのでそれらを使うことにしました。望遠鏡は、そのときに持っていたBORG 45EDIIでも充分に撮影できますが、せっかく海外まで遠征するので新しいものがほしくなり、BORG 71FLを購入しました。
2017/8/17
羽田からロサンゼルスを経由して、ポートランドに入りました。空港近くのAlamoレンタカーでまずレンタカーを借りました。営業所は空港から少し離れていて、数分おきにシャトルバスが運行されています。営業所につくと、予約を確認し、わりとすぐに車に案内されました。日本車がいいと思って日産の車を予約していたのですが、同等の車ということで現代が出てきてちょっとがっかりしました。これはもうしょうがないです。設備をチェックすると、GPSナビを予約していたはずが付いていませんでした。スタッフに確認すると、在庫がなくて、別の営業所に取りに行かなければならないけどキャンセルするか?というようなことを聞かれました。さすがにナビは必要と思ったので待つことにしました。20分くらいして持ってきてくれたのですが、電源コードの接触が悪く、すぐに電源が切れてしまう状態だったので、交換してもらいました。しかし今度は取付の部品が合わず、車に取り付けられませんでした。もう1度交換してもらい、ようやく使えるようになりました。さすがアメリカという感じでかなり適当なので、出発前によく確認した方がよいと思いました。今回は不安だったのでGPSナビを借りましたが、今ならiPhoneアプリと車載ホルダーでも充分かもしれません。
心配だった運転はそれほどでもなく、なんとか大丈夫でした。交通ルールを事前に予習しておいたのと、日本で運転の練習をしておいたのがよかったです。日本との最大の違いは右側通行なので、常に意識しておいた方がよいです。日本と逆で右折は簡単ですが、左折はちょっと怖いです。油断すると逆車線に入りそうになるので、左折時は特に意識が必要です。左ハンドルはあまり気になりませんでしたが、ワイパーとウインカーが左右逆なのは慣れるまで数日を要しました。最初の2日くらいは10回くらいワイパーを動かしてしまいました。
abroad.driver.jp
空港から1時間弱ほど運転してホテルに到着しました。ホテルはポートランドのダウンタウンから少し南に行ったところにある↓のホテルにしました。
www.booking.com
半年前の時点で空き部屋が残り少なく、ちょっといい部屋しか空いてませんでした。やたら広く、キングサイズのベッドがある部屋でした。ベッドに枕が5個置かれていて、何に使うのかよく分かりませんでした。
2017/8/18
18日は観測地の下見に行きました。皆既日食当日の朝はポートランドから南に向かう道は大渋滞することが予想されていたので、前日の内にセイラム(Salem)まで移動して車中泊し、さらに南東に向かって皆既日食帯のほぼ中心で観測する計画を立てました。
Googleマップで調べたところ、セイラムから南東に向かうと、ライオンズ(Lyons)という小さな町があり、小学校があったのでそこをめざしてみることにしました。
ポートランドからセイラムまでは車で1時間弱くらいでした。セイラムはオレゴン州の州都なので、それなりに店などが多く、駐車場で車中泊ができる程度に平和なようでした。比較的アクセスしやすい場所に24時間営業のデニーズがあったので、そこを前泊場所の候補にしました。
セイラムからさらに南東に車で30分くらい走ると、ライオンズに着きました。小学校には芝生の大きなグラウンドがあり、観測に適していそうでした。今は夏休みなので児童はほとんどいませんでしたが、職員の方はいたので、話をしてみたところ、少人数だったらグラウンドで観測してもよいと快く承諾してくれました。トイレも借りることができました。
ひとまず練習で太陽を撮影してみました。
夜はオレゴン州の最高峰、フッド山(Mt. Hood)の方面に走り、天体観測してみることにしました。山に向かって走ると、トイレがある簡易休憩所のようなところがあったので、そこで夜になるのを待ちました。オレゴンは緯度が北緯45度程度と、北海道よりやや北なので今の季節は日照時間が長く、夜8時を過ぎてもまだ少し明るいくらいでした。夜9時を過ぎてくると星が見えてきて、天の川も見えました。しかしこの日は部分的に曇りですっきりと晴れませんでした。なんとか天の川は撮影できましたが、雲が晴れそうになかったので日が変わらないうちにさっさと退散しました。
2017/8/19
19日は、朝食のために朝8時くらいに起きましたが、前日の200km以上の運転と、時差ボケでそのあと午後2時くらいまで寝てしまいました。午後2時は日本時間で朝の6時なので、だいたい日本時間に近い感じで生活することになり、結果的に時差ボケはそれほどなかったような気がします。
午後からゆっくりとローズガーデンに観光に行きました。バラの花と、森の中のトレッキングを楽しむことができました。自然を楽しめるのはオレゴンのいいところです。
夜は星がきれいに見えそうな、マウントフッドビレッジというところを目指してみました。明るい内に到着したかったのですが、時間を読み間違えて夜9時過ぎに到着してしまい、車のライト以外ほとんど真っ暗な状況で、ロケハンに難航しました。携帯の電波も入ったり入らなかったりで、Googleマップも当てになりません。
www.tripadvisor.jp
たまたま広場のような場所を見つけて入ってみたところ、素晴らしい星空で、天の川がはっきりと見えました。この日は雲もほとんどなく快晴で、天体観測にはパーフェクトでした。後から調べてみるとここはゴルフ場だったようです。
満天の星空と天の川。Samyang 14mm f/2.8, SONY α7S, ISO6400, 30s, RAW1枚, iPhone版LightRoomとInstagramで編集。
上の写真を再処理しました。Samyang 14mm f/2.8, SONY α7S, ISO6400, 30s x20枚, LightRoomで現像, ステライメージ8でスタック, GIMPで微調整。
M31アンドロメダ銀河。BORG 71FL, SONY α7S, ISO6400, 60s, RAW1枚, iPhone版LightRoomとInstagramで編集。
上の写真を再処理しました。BORG 71FL, SONY α7S, ISO6400 30s x10枚, ISO12800 30s x10枚, LightRoomで現像, ステライメージ8でスタック, GIMPで微調整。
立ち上るような天の川。地平線近くまで夕焼けのように赤く写りました。 Contax Carl Zeiss Distagon 35mm f/2.8, SONY α7S, ISO6400, 30s x10枚, LightRoomで現像, ステライメージ8でスタック, GIMPで微調整。
夏の大三角と天の川。35mmレンズの画角は天の川の幅と合っててよいです。 Contax Carl Zeiss Distagon 35mm f/2.8, SONY α7S, ISO6400, 30s x10枚, LightRoomで現像, ステライメージ8でスタック, GIMPで微調整。
M27亜鈴状星雲。小さめですがよい発色で写っていると思います。α7SのISO12800はちょい撮りには充分常用できるほどノイズが少ないと思います。 BORG 71FL, SONY α7S, ISO12800 30s x10枚, LightRoomで現像, ステライメージ8でスタック, GIMPで微調整。
2017/8/20
20日も昼過ぎまで寝て、午後にゆっくりマルトノマ滝を見に行きました。道路が混みすぎていて駐車場までたどり着けませんでしたが、なんとか路上駐車することができました。
マルトノマ滝は落差約180mの見事な滝でした。
夜はいよいよ皆既日食の観測地への移動です。夜の時点ではまだ道路はそれほど混んでいませんでした。無事にセイラムにあるデニーズの駐車場に停車することができました。夕食もそれほど待たずに食べることができました。しかし、あれよあれよという間に満席になり、駐車場も満車になりました。やはり、前泊しようとしている人が多かったようです。早めの行動が功を奏しました。
2017/8/21
朝5時頃にセイラムを出発し、日の出前にライオンズに到着することができました。セイラムから東の方向に行く人は少ないと読んでいたとおり、道路はそれほど混んでいませんでした。
日の出前から天気は快晴で、パーフェクトな条件での観測が期待できました。
場所を確保して機材を準備していると、徐々にグラウンドに人が集まってきました。それでも最終的にだいたい30人くらいで、のんびりと落ち着いて観測できました。
太陽が昇り始めたらさっそく望遠鏡を太陽に向け、赤道儀で追尾を開始しました。ノートラブルで好調でした。
日食が始まる直前に、↓のような感じの緊急警報が携帯に送信されてきました。地震でも起きたのかと思ってちょっと驚きましたが、太陽を直接見ないようにとの注意喚起でした。日本だと地震くらいでしか見たことがないですが、こんな使い方もあるのですね。
注意喚起をしても、日食がある度に残念ながら失明する人が出るそうです。なんせ大統領が裸眼で見てしまうくらいですからね。本当に危険なのでダメ絶対です。
www.bbc.com
午前9時過ぎから太陽が欠けはじめました。太陽が半分以上欠けてくると、気温が体感できるレベルで下がり、少し肌寒いくらいでした。また、だんだんと暗くなっているのがわかりました。夕方や、曇りのときとは明らかに違う暗さで、日食独特の雰囲気でした。
部分日食中はタイマーレリーズで自動撮影していたので、太陽双眼鏡で眺めたり、ふつうの双眼鏡で↓のような感じで投影して遊んだりしていました。
皆既の時間が近づいてくると、いよいよ気分が高まってきました。皆既日食が継続している時間はわずか2分しかありません。私は撮影が主な目的ですが、その場で撮影パラメータを考える余裕はほぼありません。あらかじめパラメータは決めておき、予定どおり行動できるようにイメージトレーニングしていました。結果として↓のような感じで行動することができ、98%くらい完璧でした。このイメージ力はけん玉スキルだと思います。
- 第1接触(欠け始め)~皆既1分前まで
- ISO100, シャッター速度1/200sに設定, 念のためブラケット撮影1EVx5枚に設定(1/800, 1/400, 1/200, 1/100, 1/50s で一度に撮影)
- レリーズタイマーで2分おきに自動撮影
- 皆既1分前~第2接触(ダイヤモンドリング)
- 太陽フィルターを外す
- シャッター速度1/1000sに設定, ブラケット撮影2EVx5枚に設定(1/8000, 1/4000, 1/1000, 1/250, 1/60s で一度に撮影)
- レリーズで手動連写
- 皆既中1
- シャッター速度1/60sに設定, ブラケット撮影2EVx5枚に設定(1/1000, 1/250, 1/60, 1/15, 1/4s で一度に撮影)
- レリーズで手動連写5回くらい
- ここで興奮して三脚に足が当たってしまい構図がずれました。カメラの視野内になんとか収まっていたので、10秒くらいで中心に戻すことができました。視野から出ていたらアウトでした。
- 皆既中2
- シャッター速度1/4sに設定, ブラケット撮影2EVx5枚に設定(1/60, 1/15, 1/4, 1, 4s で一度に撮影)
- レリーズで手動連写3回くらい
- 皆既中3~第3接触(ダイヤモンドリング)
- シャッター速度を1/60sに設定
- カメラを動画撮影に切り替え
- ここまでで、皆既時間は残り30秒くらいだったようです。
- ふつうの双眼鏡で観測。広がっているコロナがくっきり見えて感動的でした。
- 広角レンズで撮影。金星が写りました。
- 第3接触~第4接触(日食の終わり)
- 太陽フィルターを付ける
- 露出1/200sに設定
- レリーズタイマーで2分おきに自動撮影
皆既中の写真は上の方に掲載しています。
皆既中の太陽と金星。冬の星座が見えるかと思いましたが、そこまでは暗くなりませんでした。
第3接触が終わると、帰っていく人がかなりいました。私は折角なので最後まで撮影してましたが、最後までグラウンドに残っていたのは私でした。撮影機材は私が一番重装備だったくらいで、重装備な人がほとんどいない穴場でとてもいい観測場所だったように思います。
帰り道は、ライオンズからセイラムまでは混雑もなくたどり着けましたが、セイラムからポートランドの間が大渋滞でした。高速も下道も大渋滞でかなり迂回しましたがそれでも渋滞していて、通常なら1時間弱くらいのところ、5~6時間かかりました。これが行きでなく帰りだったのが救いです。やはり前泊して移動したのは正解でした。
初めての皆既日食観測にも関わらず、最初から最後まで雲一つないパーフェクトな天気で、観測機材も順調で、予定していた観測がほとんどうまくでき、非常に満足度の高い旅になりました。北米行きを後押ししてくれた友人、快く送り出してくれた家族、観測場所を提供してくださった小学校の方、Facebookで地元の情報を教えてくれた友人達と、そのほかにも多くの方のおかげで素晴らしい体験をすることができました。感謝感謝です。
次は2024年にまた北米で皆既日食があるのでまた行きたいですね。日本で次に見られるのは2035年なのでまだだいぶ先ですが、今から楽しみです。
おまけ
壁紙として使えそうな感じに加工してみました。よろしければご自由にどうぞ。
http://www.shakemid.com/pub/total_solar_eclipse_wall_1920.png
http://www.shakemid.com/pub/total_solar_eclipse_wall2_1920.png