2024/4/8 北米皆既日食を見てきました

概要

2024/4/8にメキシコのクアトロシネガスで皆既日食を見てきました。皆既日食は2017年にアメリカで見て以来生涯で2度目でした。今回は天気予報が1週間前からずっと悪く、当日も曇りでしたが、薄雲越しにほぼ全過程が見えるというミラクルな展開でした。皆既日食は何度見ても感動しますね。行ってよかったです。

薄雲の向こう側でばっちり皆既日食を捉えました。どうしても雲の影響はありますが、コロナの細かい構造まで撮影できてよかったです。

撮影データ: BORG 107FL, 7108フラットナー, SONY α7S, 648mm, f/6.1, ISO100, 1/1000s~1/2s まで1EV刻みで10枚の画像をステライメージ9でスタックし回転アンシャープマスク, PhotoShop, DenoiseAI

上の写真は回転アンシャープマスクを2回かけて強調しましたが、こちらは1回だけにして眼視のイメージに近づけてみました。眼視だとプロミネンスがもっと赤く見えるのですが、なかなか写真では表現しづらいですね。

撮影データ: BORG 107FL, 7108フラットナー, SONY α7S, 648mm, f/6.1, ISO100, 1/1000s~1/2s まで1EV刻みで10枚の画像をステライメージ9でスタックし回転アンシャープマスク, PhotoShop, DenoiseAI

第2接触直前のダイヤモンドリングです。薄雲越しなのでちょっとソフトな感じですが、むしろ幻想的な感じになってこれはこれでアリだと思います。薄雲越しだからかゴーストがほぼ出ておらず、綺麗に撮影できたと思います。

撮影データ: BORG 107FL, 7108フラットナー, SONY α7S, 648mm, f/6.1, ISO100, 1/500s, ステライメージ9, PhotoShop, DenoiseAI

第2接触時のプロミネンスです。これも薄雲越しですが、はっきりと写すことができました。

撮影データ: BORG 107FL, 7108フラットナー, SONY α7S, 648mm, f/6.1, ISO100, 1/250s, ステライメージ9, PhotoShop, DenoiseAI

第3接触直前のダイヤモンドリングです。これは動画からの切り出しです。プロミネンスの側から光が現れてとても美しかったです。

撮影データ: BORG 107FL, 7108フラットナー, SONY α7S, 648mm, f/6.1, ISO100, 1/60s, 動画から切り出し, ステライメージ9, PhotoShop, DenoiseAI

第3接触直前のプロミネンスです。右下に出ているプロミネンスが今回見えた中では最大でした。

撮影データ: BORG 107FL, 7108フラットナー, SONY α7S, 648mm, f/6.1, ISO100, 1/60s, 動画から切り出し, ステライメージ9, PhotoShop, DenoiseAI

皆既日食時に広角で撮影していた動画から切り出した画像です。金星と木星は余裕で写っているのでかなり薄い雲だったのだろうと思います。

撮影データ: Tamron 20-40mm, SONY α7C, 20mm, f/2.8, ISO100, 1/60s, 動画から切り出し, ステライメージ9

2017年のときの記事はこちらです。このときは雲一つない快晴でこれ以上ない成功でした。今回は快晴とはいきませんでしたが、事前の天気予報からすると大成功と言っていいと思います。

shakemid.hatenablog.com

検討

2017年にアメリカで皆既日食を初めて見たのですが、2024年にも北米で皆既日食があることはわかっていたので、そのときから計画は始まっていたと言えます。皆既日食を見ると、また見たくなることを、俗に日食病と言うらしいのですが、私は完全に日食病に感染してしまったようです。

2023/10ごろに具体的に今回の旅の検討を始めたのですが、検討ポイントは3つほどありました。

どこで見るのか

今回の皆既日食は、ダラスなど日本からアクセスしやすいメジャーな都市でも見られることがわかっていたので、当初はアメリカで見ようと思っていました。しかし、気候を調べていると、4月のアメリカ東部~南部はかなり晴天率が低いことがわかってきました。せっかく行っても、天候が悪いと皆既日食を見ることはできません。今回の皆既日食はメキシコ~アメリカを通過するのですが、晴天率についてはメキシコの方が高く、観測の成功率を高めるにはメキシコの方が良さそうに思えました。

https://science.nasa.gov/eclipses/future-eclipses/eclipse-2024/where-when/

子供を連れて行くかどうか

私には小学生と保育園児の子供がいます。保育園児の方はさすがに皆既日食を理解できないですが、小学生の方は理科が好きで皆既日食にも興味を示していました。小学生ともなれば、一生の思い出になるだろうと考え、連れて行きたいと思いました。4月の上旬なので、旅程の半分くらいは春休みで、1学期の始業式から数日休むことにはなりますが、大きな影響はないだろうと判断しました。 なお、私も当然ながら仕事を休む必要があります。私はただのサラリーマンなので、4月に1週間休むのは多少抵抗がありましたが、私は社畜失格なので堂々と有給休暇を行使することにしました。ここは快く送り出してくれた同僚に感謝です。

旅行の手配をどうするのか

メキシコへ行くとなると、言語の壁や治安の面で、アメリカに行くのとは難易度がだいぶ変わります。2017年のアメリカでは個人で飛行機とレンタカーを手配して適当になんとかなったのですが、メキシコでしかも子連れとなると安全を確保する自信がだいぶなくなりました。個人手配が難しいとなると、旅行会社のツアーが候補になってきます。皆既日食を見に行くツアーはいろいろとあるのですが、ちょっと簡単に手が出ないほどの高価なツアーが多いです。今回については、安全を最優先として、個人手配は諦めました。何社か比較検討した結果、比較的安価で過去実績が良さそうな国際航空旅行サービス社のツアーに申し込むことにしました。

tse2024.kokusaikoku.co.jp

余談ですが、子供を海外旅行に連れて行くとなると、直前に体調を崩すことが心配になります。幸い、わりと丈夫な子供ですが、コロナウイルス・インフルエンザ・ノロウイルスなど、いつ感染してもおかしくない厄介な病気はいくらでもあります。今回は高価なツアーなのでキャンセル料も高価になってしまいます。リスクが高いので、はじめて海外旅行のキャンセル保険に入ることにしました。結局使わなかったですが、心の余裕を買う意味はあったと思いました。

tabiho.jp

機材選定

望遠鏡

望遠鏡は BORG 107FL にしました。通常、10cm以上の口径の望遠鏡を海外に持って行くのは相当大変だと思うのですが、BORG 107FLは対物レンズをコンパクトに収納できるのでカメラバッグに詰め込むことができます。対物レンズを機内持ち込みにできるのは相当のメリットがあると思います。

BORG 107FL と組み合わせる補正レンズはどうするかちょっと悩みました。2017年の時は BORG 71FL と1.4倍エクステンダー(BORG 7215)を使って焦点距離560mmで撮影しました。BORG 107FLと7215を組み合わせると840mmになってしまい、皆既日食を撮影するにはやや長すぎる感じがしました。皆既日食時のコロナを捉えるには600mm前後がよいようなので、補正レンズはフラットナー(BORG 7108)を使うことにしました。これなら、焦点距離648mm、f/6.1になるのでちょうどよいと思いました。

www.tomytec.co.jp

カメラ

カメラは2017年の時と同じく、SONY α7S にしました。2015年に購入したちょっと古いカメラですが、手ぶれ補正がないので軽く、ダイナミックレンジも広いので、皆既日食の撮影には今でも向いていると思います。

難点があるとすれば、バッテリー容量が小さく、日食の始めから終わりまで撮影しようとすると途中でバッテリーの交換が必要になることでした。そこで、USBモバイルバッテリーを接続できるアダプターを導入しました。これなら大容量のモバイルバッテリーを接続できるので、バッテリー切れの心配がほぼなくなります。現状α7Sはほとんど天体写真でしか使っていないので、このアダプターを付けていても特に不自由はありません。

架台

2017年の時はポラリエを使ったのですが、BORG 107FL を使うとなるとカメラ込みで4kgくらいにはなってしまうのでちょっと荷が重くなります。(それでも口径10cm級の望遠鏡としては軽いですが)

そこで、Sky-WatcherのAZ-GTiを使うことにしました。これは赤道儀ではなく経緯台なのですが、皆既日食を撮影するなら特に問題ありません。耐荷重も5kgあるのでまずまず余裕があります。昼間なので自動導入にはあまり期待できませんが、追尾性能は赤道儀とそれほど変わらない精度だと思いました。

移動

今回の旅は移動がなかなか大変でした。片道で丸2日を費やし、現地に3泊滞在して帰るという弾丸ツアーだったので、日食を見るとき以外は基本のんびりしているしかないという贅沢な時間でした。小学生がこの移動に耐えられるか若干心配でしたが、わりと元気で助かりました。

  • 羽田~ダラス(約11時間)
  • ダラス~モントレー(約2時間)
  • モントレーで1泊
  • クアトロシネガスにバスで移動(約6時間)

前日

前日には撮影のリハーサルを行いました。海外とはいえ、それなりに使い慣れた機材ではあるので、問題なく扱うことができたと思います。

天気は曇りで、太陽の周りに22度ハロが出ていました。なんとか太陽が見えるくらいの薄雲ではあったのですが、なかなか不安になる天気でした。

当日

当日はみなさん朝から撮影機材を設置していました。ホテルの敷地に望遠鏡がずらっと並んで、まるで展示会のようでした。かなり重量のある、タカハシの望遠鏡と赤道儀を持ってきている方もたくさんおられました。私は比較的軽量の機材にしましたが、望遠鏡の口径だけは最大級だったかもです。

皆既日食中は天気予報のとおりずっと曇っていましたが、薄雲を通してずっと太陽が見えていたのでなんとか撮影には成功しました。曇りの天気予報の中でも観測できたのでかなりのラッキーだったのだろうと思います。

小学生の子供も皆既日食を上手に観察できました。比較的年配の方が多いツアーで、小学生は私の子供1人だけだったので、何かと親切にしてもらえてありがたかったです。

日没時にはだいぶ天気が回復して晴れ間が出ていました。この季節の天気の予測はほんとに難しかったようです。プロの手配力には感服しました。

というわけで、2017年に引き続き皆既日食の観測に成功し、二連勝となりました。皆既日食は一生のうちでもそれほど多く見られる機会がないので、元気なうちに見ておきたいと思いました。次に日本で見られるのは2035年なので、それまでは元気でいたいところです。

撮影プロセス

撮影プロセスは2017年のときとだいたい同じですが、ずっと薄雲が出ていたので露出を試行錯誤する必要がありました。2017年の時はBORG 71FL+1.4倍エクステンダーを使ってf/7.9の光学系でしたが、今回はBORG 107FL+1.08倍フラットナーでf/6.1の約1段分明るい光学系だったので、薄雲を考慮して概ね2017年の時と同じ露出時間にしました。

  • 第1接触(欠け始め)~皆既1分前まで
    • ISO100, シャッター速度1/200sに設定, 念のためブラケット撮影1EVx5枚に設定(1/800, 1/400, 1/200, 1/100, 1/50s で一度に撮影)
    • レリーズタイマーで3分おきに自動撮影
    • 雲が濃くなってモニターから見えづらくなったらISO200~400程度に変更
  • 皆既1分前~第2接触ダイヤモンドリング
    • 太陽フィルターを外す
    • シャッター速度1/1000sに設定, ブラケット撮影1EVx5枚に設定(1/4000, 1/2000, 1/1000, 1/500, 1/250s で一度に撮影)
    • レリーズで手動連写
    • ほんとはここで2EVx5枚にするつもりでしたが、露出を試行錯誤しているうちに設定するのを忘れました。今回これが1ミスです。
  • 皆既中1
    • シャッター速度1/250sに設定, ブラケット撮影1EVx5枚に設定(1/1000, 1/500, 1/250, 1/125, 1/60s で一度に撮影)
    • シャッター速度1/60sに設定, ブラケット撮影1EVx5枚に設定(1/250, 1/125, 1/60, 1/30, 1/15s で一度に撮影)
    • シャッター速度1/8sに設定, ブラケット撮影1EVx5枚に設定(1/30, 1/15 1/8, 1/4, 1/2s で一度に撮影)
    • レリーズで手動連写各5回くらい
    • 薄雲越しで適正露出がよくわからなかったので適当に露出をずらして撮影しました。ここでも2EVにするのを忘れてますが、まずまずいろんな露出の素材を撮影できたのでよかったです。2017年の時は皆既の時間が2分ほどしかなく慌ただしかったですが、今回は4分以上あったのでだいぶ余裕があったように思います。
  • 皆既中2~第3接触ダイヤモンドリング
    • シャッター速度を1/60sに設定
    • 皆既残り1分半ほどでカメラを動画撮影に切り替え
    • ここからは肉眼&双眼鏡での観測を楽しみました
  • 第3接触~第4接触(日食の終わり)
    • 太陽フィルターを付ける
    • 露出1/200sに設定
    • レリーズタイマーで3分おきに自動撮影

おまけ

壁紙用の画像を作ってみました。よろしければ個人利用の範囲でどうぞお使いください。

https://www.shakemid.com/pub/20240408_total_solar_eclipse/total_solar_eclipse_2024_wall1_1920.jpg 1920x1080

https://www.shakemid.com/pub/20240408_total_solar_eclipse/total_solar_eclipse_2024_wall1_2560.jpg 2560x1440

ZWO AM5のウェイトシャフトをモノタロウで特注してみた

概要

ZWO AM5のウェイトシャフトをモノタロウで特注してみました。結果として純正品の約半額で作ることができたので、何かの役に立つかもしれないと思い共有します。

AM5とは?

AM5とはZWO社から2022年に発売された赤道儀です。波動歯車という方式を採用しており、従来のドイツ式赤道儀とはまったく形状が異なります。ドイツ式赤道儀では、バランスウェイトを使用して望遠鏡とバランスを取る必要がありましたが、このAM5は積載量13kgまでであればバランスウェイト不要です。

astronomy-imaging-camera.com

調査

先述の通り、AM5は積載量13kgまでであればバランスウェイト不要ですが、バランスウェイトを使用すれば最大20kgまで積載することができます。私の手持ちの機材は13kgどころか10kgもないのでウェイトは不要なのですが、将来役立つかもしれないのであってもいいかなと思いました。

ウェイトシャフトは純正品があるのですが、税別5455円と、なかなかいい値段です。天体望遠鏡の界隈では、ネジや棒や板が数千円~数万円することもあるのでそれほど法外な値段でもないような気はしますが、もうちょっとなんとかなるのではないかと思いました。

www.kyoei-tokyo.jp

ウェイトシャフトの仕様を確認すると、オスネジの仕様はM12・ピッチ1.75mmで、シャフトの外径は20mmであることがわかりました。モノタロウで調べてみると、このサイズの金物を特注できることがわかり、レビューを見ると赤道儀のウェイトシャフトとして使っている人もいるのでいけそうな気がしました。

www.monotaro.com

発注

純正品にサイズが近く、半額くらいの値段になるように、以下のようなパラメータで発注することにしました。

項目
軸経(D) 20mm
長さ(L) 200mm
P 12mm
G 17mm
V 12mm
N 12mm

こちらのリンクで同じパラメータで作成することができます。2022/9/5の時点で税別2873円でした。

www.monotaro.com

こちらのサービスはかなり素晴らしいのですが、1つ惜しいところがあり、オスネジの根元5mmのところにネジを切ることができません。これだと、オスネジをねじ込んでもちょっと浮いてしまいます。ネジを切らない部分を細くする加工(ヌスミ加工というそうです)ができると完璧なのですが、今のところ解決方法がないので、スペーサーがほしくなりました。内径12mm、外径20mmのものがあればちょうどよかったのですが、見つからなかったので内径12mm・外径15mmと、内径16mm・外径21mmの2個のスペーサーを組み合わせることにしました。税抜189円+229円=418円 なので許容範囲かなと思います。私は後から別で注文してしまったので送料が別にかかってしまいましたが、3500円で送料無料になるのでいっしょにまとめればよかったと思います。

www.monotaro.com

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納品

注文から2週間ほどで納品されました。

丁寧な梱包で届きました。

型番はこんな感じ。型番で仕様がわかるようになっているようです。

オスネジ側。根元の5mmのところにネジが切られていないところがあります。

メスネジ側。

AM5にそのまま取り付けると、ちょっと浮いてしまいます。

スペーサーを取り付けたところ。両面テープで固定すれば十分かなと思います。

スペーサーを取り付ければぴったりです。

反対側は、元々付属していたM12ネジがぴったり取り付けられます。

純正品と見間違うようなぴったり感です。

外径20mmなので、ビクセンGP互換のバランスウェイトなどを取り付けることができます。13kg以上のものを搭載する予定は当面ないので不要なのですが、つけてても害はないと思います。特に、経緯台モードで使うときは若干精神衛生上いいかもしれません。

こんな感じのアクセサリを付けることもできます。

まとめ

モノタロウで特注したシャフトは十分使えそうなことがわかりました。当面使うことはなさそうですが、純正品より安価に作れてとりあえず満足しました。赤道儀用のシャフトをこんなに簡単に特注できるとわかったのは収穫でした。

今回は片側オスネジ、片側メスネジのものを作成しましたが、両側メスネジで、片方にM12の全ネジをねじ込むようにするのもありかもしれないです。強度的には落ちるかもしれないですが。

www.monotaro.com

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房総半島最南端で天の川を撮影しました

コロナ禍で帰省もままならないので、家族を連れて県内に小旅行してきました。昼間は運転で、夜は天体撮影なのでなかなか肉体に堪えましたが、どちらも幸せなのでよしとしておきます。

maruchiba.jp

撮影スポットは、ここ数年、年に1回は行っている房総半島最南端の野島崎にしました。ここは野島崎灯台があるのでだいぶ明るいですが、肉眼で天の川が見えてアクセスしやすいので私は気に入っています。

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房総半島最南端野島崎での天の川(2021/8/10 22:00頃)

今回の成果はこれです。今年は春に天の川を見る機会がなかったですが、8月になって撮影できてよかったです。8月になると22時くらいには天の川が垂直になってかなりの見応えがあります。縦構図がぴったりでした。撮影データは以下のような感じです。

Samyang 24mm f/1.8 FE
SONY α7S
Kenko プロソフトンクリア
Kenko スカイメモSで追尾
f/1.8, ISO3200, 30s x8枚スタック
ステライメージ9でトーンカーブ調整
PhotoShopで背景合成
DenoiseAIでノイズ除去

今回は新機材を2つ使用しました。1つめは Samyang 24mm f/1.8 です。これは今年発売されたばかりの新しいレンズで、星景用に最適との触れ込みなので買ってみました。24mmという画角は、広角ながら天の川の中心部を大きく写すことができて、とても使いやすいと思いました。解放からかなりの解像度で、四隅に若干のコマ収差は見られるものの、ウェブ上で掲載する程度なら十分すぎると思いました。また、f/1.8の明るさは強力で、ISO3200・30秒の露出で十分に天の川を写すことができました。α7SならISO3200程度でもノイズは少ないのでとても相性が良さそうです。

もう1つの機材はKenkoプロソフトンクリアです。これは、星景写真によく使われるプロソフトンAフィルタより控えめなソフトフィルターで、こちらも去年発売された新しめの製品です。テストもせずいきなり使ってみましたが、明るい星のにじみ具合と天の川のつぶつぶ感がちょうどよく、プロソフトンAより好みでした。Samyang 24mmとプロソフトンクリアはとても使い勝手がよいことがわかったので、今後も天の川撮影の主力として使っていこうと思います。

BORG 107FL + 笠井トレーディングV-POWER接眼部のセットアップ

概要

BORG 107FL と、笠井トレーディングV-POWER接眼部を組み合わせてみたメモです。BORGの各種補正レンズと組み合わせても無限遠が出る組み合わせになっています。

背景

2019年の消費税増税前に駆け込みでBORG 107FLとBU-1のセットを購入していました。シンプルでとてもいい組み合わせのように思ったのですが、BU-1のヘリコイドはアソビがやや大きくピントを合わせづらいと感じたのと、台座が1点支持なので107FLの対物レンズを支えるにはやや心許ないという不満点が出てきました。

天体写真を撮るには接眼部に微動装置がほしいと思ったので、サードパーティ製品も含めて探していたところ、笠井トレーディングのV-POWER接眼部がよさそうかなと思いました。以前はBORGのOEMで発売されていたこともあったようですが、今はより安価になって笠井トレーディングから発売されています。

www.kasai-trading.jp

鏡筒パーツ

f:id:shakemid:20200918103013j:plain

鏡筒は以下のようなパーツを組み合わせています。

V-POWER接眼部+オプション

  • V-POWERII接眼部L + BORG互換アダプター
  • ファインダー脚台座

BORGパーツ

  • 80φL135mm鏡筒BK【7138】
  • M77.6→M68.8AD【7801】
  • M57回転装置DX【7352】
  • マルチバンド80Φ【7085】 x2個
  • マルチバンド用スペーサーL20【7020】 x2個
  • ロングプレート200【3200】
  • アリミゾ式ファインダー台座BK【0610】

V-POWER接眼部はBORG互換のアダプター付きの製品があるのでそちらを購入しました。BORGの延長筒はたくさん種類があって迷いますが、各種補正レンズを取り付けてもピントが出る長さとして135mmを選びました。また、ドロチューブ無しでV-POWER接眼部を接続するために M77.6→M68.8AD【7801】も購入しました(買うのを忘れて、後から購入しました)。M57回転装置DX【7352】は元々持っていました。ちょっといい値段しますが、デジカメを取り付ける場合はあった方が便利です。鏡筒バンドはBORG純正にしたのでなかなかいい値段しますが、サードパーティ製品ならもうちょっと安価にできると思います。ファインダー台座はファインダーとガイド鏡を取り付けるために2個付けましたがこれはお好みで。

重量

BORG 107FLの対物レンズは1772gでした。 f:id:shakemid:20200918094352j:plain

鏡筒部分は1643gでした。 f:id:shakemid:20200918094507j:plain

対物レンズと鏡筒部を合わせると約3.4kgになります。ここに補正レンズも加えるともうちょっと重くなりますが、口径10cm級のアポクロマート鏡筒としては相当に軽いです。さらに分解収納できるので、飛行機での遠征等を視野に入れると非常に有力な選択肢になると思います。

7872レデューサとの組み合わせ

7872レデューサと組み合わせると下の写真のあたりで無限遠が出ます。ドロチューブを24mmほど繰り出した位置でピントが出ているので、135mmより長い150mmの鏡筒でも無限遠が出そうですが、かなりギリギリになってしまいそうです。 f:id:shakemid:20200918101353j:plain f:id:shakemid:20200918101402j:plain

7872レデューサは90FLと71FL用なので107FLとの組み合わせはサポートされていませんが、相性はかなり良好に見えます。以下の作例はm4/3のカメラで撮影したものですが、ノートリミングで四隅までシャープです。フルサイズだと四隅が少し流れるらしいです。

ところで、海外では107FL専用レデューサとのセット製品が販売されているのですが、日本では発売されておらず残念です。かなり高価ですがほしい人はいるんじゃないでしょうか。

astrohutech.store

7108フラットナーとの組み合わせ

7108フラットナーと組み合わせるときは、M57/60延長筒M【7603】を使うとちょうど良いようです。下の写真のあたりで無限遠が出ます。 f:id:shakemid:20200918101725j:plain

7215テレコンバータとの組み合わせ

7215テレコンバータと組み合わせるときも、M57/60延長筒M【7603】を使うとちょうど良いようです。下の写真のあたりで無限遠が出ます。 f:id:shakemid:20200918102043j:plain

直焦点

あまり使うことはないと思いますが、補正レンズを使わない直焦点でも無限遠が出ます。バックフォーカスは十分あるので、天頂プリズムを取り付けて眼視もできます。 f:id:shakemid:20200918102505j:plain

BORG 107FL 天体鏡筒セットCR 【6207】

BORG 107FL 天体鏡筒セットCR 【6207】

  • メディア: エレクトロニクス

BORG 107FL 望遠レンズセットCH 【6210】

BORG 107FL 望遠レンズセットCH 【6210】

  • メディア: エレクトロニクス

M57 回転装置DX 7352 BORG ボーグ

M57 回転装置DX 7352 BORG ボーグ

  • メディア: エレクトロニクス

天体望遠鏡 1.4×テレコンバーターGR 7215

天体望遠鏡 1.4×テレコンバーターGR 7215

  • メディア: エレクトロニクス

都会でのM27亜鈴状星雲とM16わし星雲

概要

ゴールデンウィークはどこかに遠征しようと思ってましたが、昨今の世界的な新型コロナウイルスパンデミックの影響で全くそんな雰囲気ではなくなってしまいました。天体観測は屋外でやることなので3密ではありませんが、買い物や食事はするので、旅行するのと大差はないでしょう。

しかし、この状況も裏を返せば、本来どちらかといえばアウトドア趣味と言える天体観測を、自宅でいかに楽しむかということを考えるチャンスとも言えます。というわけで、最新鋭の機材を使って、東京近郊の都会から夏の星雲を撮影してみました。

主な機材

都会で星雲を撮影するにはそれなりの機材が必要です。近年では、アマチュアでもなんとか手の届く範囲の機材で、一昔前のプロを凌ぐような写真を撮れるようになったのでいい時代です。

サイトロンQBPフィルター

都会で星雲を撮影するなら必須アイテムとも言えるフィルターです。光害を強力にカットしつつ、主に星雲が発するHα, Hβ, OIII, SIIの4つの波長を通すようになっています。いくつかのメーカーから似たような特性のフィルターが発売されていますが、価格対性能のよさから人気があるようです。

ZWO ASI294MC Pro

ここ数年で一気にメジャーになった感のあるZWO社の天体専用カメラです。高感度のm4/3サイズのセンサーは星雲・星団・銀河などDSOの撮影にちょうどいいです。

ZWO ASIAIR Pro

ASIAIR ProはRaspberry Piベースの小型デバイスです。これがあれば、赤道儀のコントロール、オートガイド、撮影などがスマートフォンタブレットだけでできます。ZWO社のカメラを持っているなら買って損はないと思います。 hoshimiya.com

M27亜鈴状星雲

夏の大三角の中にある夏を代表する天体の1つです。緑のOIIIと赤のHαで光っているのでQBPフィルターとは相性がいいです。遠征してきたのとほぼ変わらない写りだと思います。亜鈴状というよりラグビーボール状に写すことができました。

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M16わし星雲

こちらも夏を代表する天体の1つです。主にHαで光っている赤い星雲なのでこちらもQBPフィルターとは相性抜群です。ハッブル宇宙望遠鏡の写真で有名な創造の柱がはっきりと写りました。自宅からここまで写るとは感動ものです。

f:id:shakemid:20200503211939j:plain

ハッブルの写真はこちら。自宅からちょっとハッブル気分です。 natgeo.nikkeibp.co.jp

撮影データ

M27もM16も同じ条件で撮影しました。どちらも露出時間はちょうど1時間です。

  • BORG 107FL + 7108フラットナー (648mm, f/6.1)
  • サイトロン QBP Filter
  • ZWO ASI294MCPro (gain390, 冷却0C)
  • ZWO ASIAIR Proで撮影・オートガイド(30mm, f/4, ASI290MC)
  • Sky-Watcher EQ5GOTOで追尾
  • Deep Sky Stacker でスタック(60s x 60フレーム, ダーク20フレーム, フラット20フレーム)
  • ステライメージ8でトーンカーブ調整等
  • Topaz DenoiseAIでノイズ除去

撮影風景はこんな感じです。光害がひどいので肉眼では2等星すらよく見えません。

というわけで、最新機材のおかげで、都会でも、月や惑星だけでなく、星雲の撮影も楽しめるようになりました。自宅でできることは増えましたが、天の川などは遠征しないと見えないので、この状況が落ち着いたらまた遠征したいなと思います。

BORG 107FL 望遠レンズセットCH 【6210】

BORG 107FL 望遠レンズセットCH 【6210】

  • メディア: エレクトロニクス

ステライメージ8

ステライメージ8

  • 発売日: 2017/02/15
  • メディア: DVD-ROM

Topaz DeNoise AI で天体写真のノイズ除去

概要

最近アマチュア天体写真界隈で流行っている Topaz DeNoise AI というノイズ除去ソフトを使ってみたテストです。 DeNoise AI はこちらからダウンロードできます。1ヶ月間は無料で使用できるのでとりあえずお試し。

topazlabs.com


M45 プレアデス

こちらは、2017/9に戦場ヶ原で撮影してきたM45です。コンポジット枚数が足りていないので拡大するとノイジーですが、DeNoise AIを使うとなめらかになりました。しかもディテールは損なわれていないように見えます。

shakemid.hatenablog.com

馬頭星雲

今度は、2019/12に自宅から撮影した馬頭星雲です。東京近郊のひどい光害の下でよくここまで写ったものだと思いましたが、DeNoise AIを使うとさらになめらかになりました。恒星の周りの赤ハロも目立たなくなってる感じがします。

ばら星雲

同じく、2019/12に自宅から撮影したばら星雲です。これも、DeNoiseAIでディテールを保ったまま、ノイズを低減できているように見えます。

天の川

今度は、2020/2に房総半島最南端の野島崎で撮影してきた天の川です。RAW1枚だけなので拡大するとノイズだらけですが、だいぶなめらかになります。散光星雲のような対象だけでなく、星景にも使えそうですね。

まとめ

話題の Topaz DeNoise AI を使ってみました。想像以上にノイズを除去できて、しかもディテールは保ったままで驚きました。天体写真のコンポジット枚数が足りないとき、もう一押し強調したいけどノイズが気になってしまうときなどに、かなり有効なツールだと思いました。

なお、画像の比較には、Cocoenを使用しました。はてなブログでも、JavascriptCSSを本文に埋め込んで使用できました。

github.com

# 使い方の例

<link type="text/css" rel="stylesheet" href="https://cdn.jsdelivr.net/npm/cocoen@2.0.5/dist/css/cocoen.min.css">
<script type="text/javascript" src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/cocoen@2.0.5/dist/js/cocoen.min.js"></script>

<div class="cocoen">
  <img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/shakemid/20200301/20200301140314.jpg" alt="">
  <img src="https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/shakemid/20200301/20200301140319.jpg" alt="">
</div>

<script>document.querySelectorAll('.cocoen').forEach(function(element){ new Cocoen(element); });</script>

ZWO ASIAIR + Sky-Watcher SynScan Wi-Fi + EQ5GOTO で自動導入

概要

f:id:shakemid:20190824160809j:plain

ZWO ASIAIR と Sky-Watcher SynScan Wi-Fi を組み合わせて、 EQ5GOTO で自動導入できるところまで検証してみたメモです。

ASIAIR は1年ほど前からアマチュア天文界で話題になっているデバイスで、天体写真に必要な、カメラや赤道儀の操作を、スマートフォンタブレットでまとめてできてしまうという画期的な製品です。私は Sky-Watcher EQ5GOTO を、SynScan Wi-Fiスマートフォンから操作できるようにしていたので少し様子見していましたが、ASIAIRは23,000円とこの手の製品にしては安いので気付いたら買っていました。

http://hoshimiya.com/?pid=133669448hoshimiya.com

hoshimiya.com

通常は ASIAIR と EQ5GOTO の接続は、ハンドコントローラにシリアルケーブルを挿して有線で連携するのですが、どうせなら無線で連携したいと思いました。 ASIAIR と AZ-GTi での連携は公式にサポートされていたので、中身がほとんど同じと思われる SynScan Wi-Fi との連携もできるだろうと思いました。

https://astronomy-imaging-camera.com/manuals/ASIAIR_Sky-Watcher_AZ-GTI.pdf

ZWO社のFacebookページで、AZ-EQ5GT での動作報告例があったので、私も EQ5GOTO での動作報告を共有しておきました。

www.facebook.com

シナリオ

設定の手順を簡単に解説します。無線LANの設定のところが少々ややこしいかもしれません。私は、光学や制御のことはさっぱりですが、ネットワークのことは仕事上得意分野です。最近のアマチュア天文界はIT化が著しいようなので、私にはありがたいかもしれません。

私はiPadで検証したので、画面はiPadのものですが、たぶんAndroidでもだいたい同じ手順でいけると思います。

SynScan Wi-Fi の設定

iPad/iPhone を、SynScan Wi-FiSSID無線LANに接続し、SynScan Pro App で SynScan Wi-Fi に接続します。

SynScan Wi-Fi は、アクセスポイントモード(無線LAN親機)として動作していますが、ASIAIR と同じネットワークセグメントに接続するために、ステーションモード(無線LAN子機)に変更します。ASIAIR のSSIDとパスワード(ASIAIRの本体側面に記載)を入力し、固定IPアドレスを割り当てます。ここでは 10.0.0.10 に設定します。

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「Apply(適用)」を押すと設定が反映され、以後は、ASIAIRを無線LAN親機として接続するようになります。設定を間違えると、SynScan Wi-Fi に接続できなくなるので慎重に設定してください。

もし設定を間違えたら、SynScan Wi-Fi をリセットする必要があります。説明書によると、SynScan Wi-Fi をリセットするには、電源を入れて接続せずに1時間放置すればよいようです。(なんという仕様...)

ASIAIRの設定

iPad/iPhone を、ASIAIR のSSID無線LANに接続します。デフォルトでは、ASIAIRの無線LANの周波数帯は5GHzになっていますが、SynScan Wi-Fiは2.4GHzにしか対応していないので、2.4GHzにしておいてください。そもそも、日本では電波法により屋外で5GHz帯は使ってはいけないので、おとなしく2.4GHzにしておきましょう。

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SynScan Pro App でのアラインメント

iPad/iPhone を ASIAIR のSSID(ASIAIR_xxx)に接続したら、SynScan Pro App で SynScan Wi-Fi に接続してください。設定がうまくいっていれば、10.0.0.10 で SynScan Wi-Fi に接続できると思います。

SynScan Pro App で、アラインメントを行ってください。3スターアラインメントが推奨らしいのですが、ASIAIRの Plate Solving が優秀なようなので1スターアラインメントでも十分な気がします。アラインメントを行わないと、ASIAIR から接続ができないようです。

ASIAIR から SynScan Wi-Fi への接続

ASIAIR のアプリに切り替えて、望遠鏡のアイコンを選択し、以下のように設定して SynScan Wi-Fi に接続してください。

  • Telescope: EQMod Mount (SynScanではなく)
  • IP: 10.0.0.10
  • Port: 11880
  • Protocol: UDP

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接続がうまくいけば、ASIAIRから自動導入などが行なえるようになります。

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まずはここまでしか検証できていませんが、オートガイドや Plate Solving など、魅力的な機能が他にもあるので、徐々に試したいと思います。