紅白歌合戦けん玉ギネスチャレンジ ~コンサル編~

私は誰?

2018/12/31、第69回NHK紅白歌合戦で、三山ひろしさんとともにけん玉ギネス記録を達成した、けん玉ヒーローズのNo.6です。 仕事はエンジニアのようなコンサルタントのようなことをやっています。

news.livedoor.com

序章

2018/11/28、ある知らせが舞い込んできました。「再び、紅白歌合戦の舞台にて、ギネス世界記録に挑戦できることとなりました!!」と。昨年末の残念な結果から11ヶ月、うれしい反面、「今回は絶対に失敗できない」という認識を持ちました。 日本で最も視聴率が高い番組と言ってよい紅白歌合戦の中でのギネスチャレンジという試み、昨年のチャレンジは立派に終えたものの、心ないバッシングがあったのもたしかです。2度目のチャンスが回ってくるという奇跡を裏返すと、今度また失敗すれば一体どれほどの損失になるのか想像できません。 私はいち参加者ですが、けん玉歴は長い方で、参加者の中でも年長者になるので、今回は自分にできることをやろうと思ったのでした。

問題の特定

今回もチャレンジの内容は、けん玉の大皿という技を124人連続で成功するというものです。2017年と同じ内容ですので、2017年と同じようにやれば当然2017年と同じ結果になる可能性が高いと言えます。2017年に成功できなかったのはなぜなのか、まずは問題を特定する必要があります。 ここはギャップ分析というフレームワークを使ってみましょう。

現状認識(AS-IS)

2017年も、年末の12/29にけん玉ヒーローズ約120名のメンバーが招集され、ギネス記録達成に向けた練習が行われました。本番まで当日を含めてもわずか3日しかなく、できることには限りがありました。単にけん玉をやればよいというだけではなく、ステージ上では「演者」であることを求められます。姿勢、表情など、テレビに映るための訓練をしないといけないのです。また、紅白歌合戦は日本最大級の生放送番組でもあります。5時間もの時間、秒刻みのスケジュールで何千人もの人々が動くのです。その中でも最大のグループであるけん玉ヒーローズは、移動のときの隊列の組み方、ステージ上での並び方、ステージからの退出の仕方などを細かく練習する必要があるのです。 そんな中で、何度か124人で大皿を連続で行なう全体練習をやってみたものの、成功しないのです。「大皿」といえば、けん玉の最も基本的な技なので、楽勝ムードが漂っていたように思います。結局、本番を迎える12/31までを通して、成功率は3割程度でした。成功率3割の状態で、生放送一発で成功させるのは無理があったのです。

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2018/12/19に紅白歌合戦の番宣のロケを兼ねたリハーサルがあり、集まることができた60名程度で練習を行いました。このときもあまり時間がなく、全体練習を何回かやったのみでした。本番の半分の60人しかいないにもかかわらず、60人連続で大皿を決められた成功率は5割程度でした。 「これでは去年と同じ結果を迎えてしまう。」本番のわずか12日前、我々は、極めて危機的な状況にあったのです。

ゴール設定(TO-BE)

問題を解決するにはゴール設定が必要です。ビジネスだとこれはかなり時間がかかるのですが、今回は明確です。124人連続で大皿を成功できればよいのです。ゴールはより具体的な方がよいので、「紅白歌合戦の本番で、90%以上の確率で、124人連続で大皿を成功させる」というのはどうでしょうか。これなら誰でも理解できるのではないかと思います。

ギャップ

ゴール設定の90%と、現状の30%では、なんと60%もの開きがあります。これが「ギャップ」であり、今回の問題です。大事なのは、問題を当事者が理解できるように整理し、説明して、納得してもらうことにあります。これは問題解決において重要なプロセスです。

問題の深掘り

成功率を高める必要があることはわかりました。では成功率とは何なのかもう少し深掘りしてみたいと思います。 124人連続で成功する全体の成功率をPとして、個々の大皿の成功率をpとすると、Pは以下のように表すことができます。

P=p^{124}

この式から言えることは、全体の成功率は結果でしかなく、個々の成功率にすべて依存するということです。2017年は全体練習をひたすら繰り返しましたが、個々の成功率には目を向けていませんでした。「木を見て森を見ず」になってはいけないとよく言われますが、この場合は「森を見て木を見ず」のような状態に陥っていたのです。

ではなぜ、個々の成功率が低かったのか、今度はなぜなぜ分析フレームワークを使って考えてみましょう。 f:id:shakemid:20190106201215p:plain 分析してみるとなんとなく共通項が見えてきます。「このチャレンジは簡単だと思っていた」というのが根本原因の一つとして挙げられそうです。大皿というけん玉の最も基本的な技を「難しい」と思えるかどうかが本当の難しさだったのだと言えそうです。

上の図はXMindで描きました。フリー版でもかなり使えます。

http://jp.xmind.net/

対応策の提示

なぜなぜ分析より、以下のような対応策が見えてきました。本来はここで見えてくるのは仮説なので、仮説を検証しないといけないのですが、今回は問題が明確なので省略します。

  1. 難しさの言語化と周知
  2. 個別の練習方法の言語化と周知
  3. 選抜の方法の言語化と周知
  4. 集合後の練習方法の言語化と周知

まず、1.は急務と考えました。2018/12/25に以下のような情報の共有を行いました。いろんなエッセンスを詰め込んでみたつもりですが、我々のチャレンジが如何に困難なことであるのかを理解するという意味で、一定のインパクトはあったように思います。

f:id:shakemid:20190106202935p:plain

https://www.facebook.com/shakemid/posts/2244599345559437

この時点で本番6日前でした。時間はありませんでしたが、それでもそこから成功率を高められる余地は充分にあると考えました。元々けん玉のレベルがある程度高い人ばかりなので、質の高い練習によって自己鍛錬することができると考えました。

次に、2.ですが、その前に、個々の成功率を高めればよいことはわかったので、どのくらい高めればよいのか考えてみましょう。大皿の成功率で、便宜的に以下のように分けてみようと思います。

カテゴリ 成功率 例示
達人 99.99% 1万回に1回失敗する。高段者、大会上位者など。三山ひろしさんはここ。
上級者 99.9% 1000回に1回失敗する。おそらくけん玉ヒーローズのボリュームゾーン。一般的な目で見れば「けん玉名人」。
中級者 99% 100回に1回失敗する。2018年のDJ KOOさんはおそらくこのへん。
初級者 90% 10回に1回失敗する。2017年のDJ KOOさんはおそらくこのへん。(例に出してごめんなさい。)

124人全員を達人クラスで集められれば話は簡単なのですが、それはほとんど無理です。12月29日、30日、31日に終日拘束されるのは、一般人でも相当厳しいはずです。また、けん玉の高段者はかなりの部分が小中学生なのですが、出演時間の問題で小中学生は出られません。今回、リザーバー候補も含めて全国から140人集まっていますが、この条件で140人も集まるのがまず奇跡なのです。みなさん、けん玉への愛と、使命感で動いているということを忘れてはいけないと思います。

集まったメンバーの中で達人クラスは、三山ひろしさんを含めて45人前後と見ています。計算上、44人としておきます。このクラスの人は現実的な試行回数で大皿を失敗することはまずありません。残る80人をどうするかが問題です。 初級者クラスの人は残念ながら今回のチャレンジでは戦力になることができません。中級者クラスの99%でもかなりリスクが高いのです。 以下のようなモデルケースを考えてみます。

  • 達人: 44人
  • 上級者: 78人
  • 中級者: 2人
  • 初級者: 0人

これで成功率を計算すると、以下のようになり、90%をなんとか超えます。

P=0.9999^{44} \cdot 0.999^{78} \cdot 0.99^{2} \risingdotseq 0.903=90.3\%

よって、目標としては、個々の大皿の成功率99.9%以上を目指し、中級者クラスが数人入ってもやむなしとするあたりが妥当な感じがします。

参加者は最低でも中級者以上でないといけないので、以下のような練習方法を提案しました。

  • 大皿100回連続成功
  • とめけん10回連続成功

同じ大皿でも、漫然とやるのと「100回連続成功する」と意識してやるのとでは、やり方がまったく異なります。100回連続成功するためには、安定が必要です。けんのグリップ、構え、玉を引き上げる軌道、玉をよける軌道、玉を受けるときの膝の使い方などを高度に安定させないと、100回連続は難しいのです。 2018/12/19の練習のときに、三山ひろしさんが来られて「必ず成功する型を見つけるのが重要です」と、仰っていました。三山さんはけん玉の指導員の資格を持っている方なので、よくわかっておられます。それを数値目標にして、より具体化すると「100回連続成功できるような型を見つける」ということになるかと思います。100回連続成功が安定してできるなら、上級者の領域にかなり近いと言えます。

とめけんについては少し毛色が違います。とめけん10回連続成功は、大皿100回連続成功よりも難しいです。けん玉は面白いもので、大皿ばかりやってもなかなか上手くなりません。むしろ上位の技を練習することで、結果的に大皿も上手くなる効果があります。また、とめけん連続成功の10回目はそれなりに緊張感があり、本番を想定したメンタルの強化にも役立ちます。

私が主にやったのはここまでです。 12/29に集合してリハーサルを行う段階で、個別の成功率がどの程度に達しているのかが、結果の明暗を分ける大きな鍵だと考えました。

3.と4.は、進行に大きく関わるので今回のチャレンジの統括者に任せました。今回は強い思いを持って集まったけん玉プレイヤーを選考することになります。選考に落ちた人は非常に苦しい思いをすることは想像に難くありません。けん玉の大会に慣れている人は、予選落ちも経験していると思いますが、そのような経験がない人も多いでしょう。 他人に何らか負担を強いるようなことをお願いするときは、明確に言語化して、事前に書面(できれば対面)で周知して、合意を取ることが納得感につながります。このプロセスは省いてはいけません。

2018/12/29

この日初めて、今回のチャレンジを行う140人が渋谷のNHK放送センターに集まりました。140人ものけん玉プレイヤーが一堂に会すると壮観です。 全体練習の開始前に、統括者より、事前にメンバーの選考を行うことが周知されていました。選考方法は以下のようなものでした。選考の実施は、流れから私が引き受けました。

  1. 大皿に100回連続挑戦する。途中で失敗したらリザーバー候補に回る。
  2. 30人ほどのグループに分かれて、順番に大皿を行う。途中で失敗したらリザーバー候補に回る。
  3. とめけんに連続挑戦する。途中で失敗したらリザーバー候補に回る。リザーバー候補が定員に達するまで繰り返す。

選考1.は私が提案した練習方法と同じものです。よい選考方法とは、以下の2点を満たしている必要があります。(1)はよくわかると思うのですが、意外と(2)には考えが回っていなかったりします。

  • (1) 成功率が低い人をふるい落とす
  • (2) 成功率が高い人をふるい落とさない

上の方で分けた成功率の人が、大皿100回連続成功できる確率は二項分布によって求めることができます。計算してみると以下のようになります。

カテゴリ 大皿1回の成功率 大皿100回連続の成功率
達人 99.99% 99.0%
上級者 99.9% 90.5%
中級者 99% 36.6%
初級者 90% 0.027%

二項分布の計算サイト https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228843

この選考で、中級者以下の大部分をふるい落とすことができ、上級者以上はほぼ落ちないと期待できるので、妥当性はありそうです。 ちなみに、ほぼ確実に99%以下の成功率の人をふるい落とすには膨大な試行回数が必要になります(失敗する確率1%、95%信頼区間、誤差10%で計算すると38000回くらい)。さすがにこれは現実的な時間ではできません。大皿という極めて成功率が高い技で差を付けるのは難しいのです。興味のある方は、大数の法則やベルヌーイ試行のあたりを調べてみてください。

実際にこの選考で落ちてしまったのは140名中5名でした。去年の感じだと30名前後落ちてもおかしくないと考えていたので、これはうれしい誤算です。みなさんかなり練習を積んできているのだと期待できました。 反面、選考はより過酷で、理不尽なものになることを意味していました。大皿がきちんとできる人を落とさなければいけないということだからです。

選考2.では1人も落ちませんでした。本番に近い緊張感を得るには悪くありませんが、個々の大皿の試行回数は少なくなるので、選考方法としてはあまりよくなかったようです。

選考3.は非常に厳しいものでした。大皿で決まらない以上、技の難易度を上げる必要はあるのですが、とめけんは大皿とは特性が異なるのです。大皿の成功率ととめけんの成功率には強い相関があると想像できますが、とめけんは達人クラスでも99%以上の成功率にすることが難しいのです。これは、玉を引き上げた後の調整がほとんどできないことに起因するのですが、そこが大皿とは決定的に違います。(上級者クラスになると、むしろとめけんよりふりけんのほうが成功率が高くなります。) そのため、連続成功だと、どんなに上手い人でも外してしまうリスクがあります。技術よりも、むしろ度胸試し・運試しの要素が強くなってしまうのです。上記の、条件(2)を満たせない可能性が大いにあるのですが、このときはこのやり方でやると周知している以上、このやり方でやるしかありませんでした。 不安は的中し、世界クラスのけん玉プレイヤーを選考で落としてしまうことになりました。

選考後には様々な人間模様がありました。泣き出す人、納得できずその場を去る人、リザーバーになったときのために練習をする人、自分の実力を認め進んでサポート役に回る人など、これは一言では言い表せないものがあります。私自身、けん玉の大会に遠征して、予選落ちした経験もありますので、似たような状況は想像できますが、今回はそれが3日間続くので、プレッシャーは相当なものだったと思います。

続いて、全体練習に入りました。けん玉を、武道やスポーツでよく用いられる「心技体」のフレームワークに当てはめて考えてみると、今回は「体」はほぼ関係ありません。「技」については、上記の練習と選考でかなり高められると考えられます。残る「心」については、打ち手を考える必要がありました。 2017年に失敗した方は、練習では1度も失敗しなかったにもかかわらず、本番で震えて頭が真っ白になってしまい、失敗したといいます。上の方で言及したゴール設定の「紅白歌合戦の本番で、90%以上の確率で、124人連続で大皿を成功させる」の「紅白歌合戦の本番で」という部分です。

プレッシャーのかかる状況で技を成功させるには、場慣れするのが最もよいのですが、そのような時間はありません。2017年の経験者も多いですが、今回初めて参加するメンバーも相当数いました。 本番では、当然ですが1回でも失敗すればそれで終わりです。そのため、練習においても1回でも失敗すれば何かが起こる仕組みを作る必要がありました。 検討の結果、選考に落ちた人の中からリザーバー候補を選出しておき、全体練習で1回でも失敗すれば、その場でリザーバーと交代するというやり方で進めることになりました。 これは、リザーバー候補にはチャンスになりますが、いったん選考に通ったメンバーには非常に強いプレッシャーになります。本番までの3日間、本番と同等の「1回失敗したら終わる」というプレッシャーに慣れていただく必要があったのです。

この日は、板踏み(ステージでのリハーサル)を含めて、10回の全体練習を行い、いずれも124人連続で大皿を成功することができました。リザーバーとの交代はありませんでした。当初目標の成功率9割は確保できているように思いました。少なくとも、2017年は3割程度しか成功していなかったので、明らかに違ったと言えます。

2018/12/30

この日も、全体練習を開始する前に、大皿を100回連続で成功する選考を行いました。成功率を高く維持する必要があるのと、成功率を見極める試行回数は多いほど正確になるからです。 選考の結果、2名が失敗し、リザーバー候補と交代になりました。また、1名遅刻者が出たので、その1名もリザーバーと交代になりました。

この日の全体練習の5回目、29日から数えると15回目に、1名が大皿を失敗しました。全体練習での失敗はこれが初めてでした。大皿の試行回数はこの時点で 124*15=1860回になり、個々の大皿の成功率は 1-1/1860≒0.9995=99.95% に達していることが伺えました。これほどの成功率でも大数の法則により、試行回数を重ねると失敗が現れます。

全体練習では個々の成功率を上げる効果はあまりありませんが、全体の成功率の確認と、本番へのプレッシャーへの慣れのためにある程度繰り返す必要があります。29日から累積で20回の全体練習を行い、失敗したのは上記の1回のみでした。本番まであと1日、非常に高いレベルで仕上がっている手応えを感じました。

上記の失敗の内容は、引き上げた玉がけん先にぶつかるというものでした。実は1日前の板踏みの際にも危ない場面があり、けん先にぶつかった後かろうじてキャッチしているところを見ていました。99.9%の成功率でもこれはあり得るのです。けん先を避ける技術はあるので、伝えようか迷いましたが、フォームを変えることになるので、一時的に成功率が落ちるリスクもあります。しかし、2度あることは3度あると考え、以下の動画を公開することにしました。中皿を上にして構えれば、けん先に玉をぶつけることはまずなくなります。後で何人かから参考になったと言っていただけたので、公開してよかったのかなと思います。

2018/12/31

この日は本番を迎えるのみでした。極めて特殊な状況下で、プレッシャーに耐え、皆さんよくがんばったと思います。心・技ともに非常に高いレベルでまとまっていたように思います。 本番は承知のとおり、危なげなく成功することができました。終わるタイミングまで完璧で、練習でも出たことがないほどの出来でした。本番で練習以上のものが出るのは、質の高い練習と、高い集中状態が重なった理想的な状態だったということに他ならないと思います。しかし、そこまで行ってようやく「人事を尽くして天命を待つ」といえる状態で、運命を引き寄せることが出来て本当によかったと思います。

ステージ上で私は6番目でしたが、自分が成功したあと、半分を過ぎたあたりで成功を確信し、ステージ上で泣いていました。映ってないと思いますのでご勘弁いただきたいところです。

総括

けん玉ギネスチャレンジをコンサル的な視点で振り返ってみました。 けん玉ギネスチャレンジを通して、「数値目標の力」というものを感じていただけたのではないかと思います。これはビジネスにも使えるものだと思いますので、何かの機会に思い出していただけますと幸いです。